裁判例メモ:知財高判平成30年8月23日(ドキュメンタリー映画における出所明示と引用の抗弁)

知的財産高等裁判所平成30年8月23日判決
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=87950

関係条文

著作権法32条1項
 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
著作権法48条1項
 次の各号に掲げる場合には、当該各号に規定する著作物の出所を、その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならない。
一 第三十二条、第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項、第三十七条第一項、第四十二条又は第四十七条の規定により著作物を複製する場合
(略)
三 第三十二条の規定により著作物を複製以外の方法により利用する場合又は第三十五条、第三十六条第一項、第三十八条第一項、第四十一条若しくは第四十六条の規定により著作物を利用する場合において、その出所を明示する慣行があるとき。

メモ

 現行著作権法においては(旧法とは異なり)、引用(著作権法32条)に伴う出所明示(同法48条1項1号又は3号)は、著作権制限規定による著作物利用に際しての債務にすぎず、出所の明示をしなかったからといって著作権侵害になるわけではないと解されている(加戸守行『著作権法逐条講義』[六訂新版](著作権情報センター、2013年)379頁)。本判決においても、「著作権法32条1項が規定する適法引用の要件として常に出所明示が必要かどうかという点はともかくとしても,」と留保されている。
 しかし、本件においては、以下の諸事情から、「適法引用として認められるための要件という観点からも,本件映画において本件各映像を引用して利用する場合には,その出所を明示すべきであったといえ,出所を明示することが公正な慣行に合致し,あるいは,条理に適うものといえる」のにこれをしなかったので、「著作権法32条1項が規定する適法な引用には当たらない」とされた(判決書24頁)。

①引用する側と引用される側「の区別性は弱いものであるといわざるを得ないから,本件使用部分が引用であることを明らかにするという意味でも,その出所を明示する必要性は高い」
②「本件のようなドキュメンタリー映画の場合,その素材として何が用いられているのか(その正確性や客観性の程度はどのようなものであるか)は,映画の質を左右する重要な要素であるといえるから,この観点からしても,素材が引用である場合には,その出所を明示する必要性が高い」
③「本件においては,引用する側(本件映画)も引用される側(本件各映像)も共に視覚によって認識可能な映像であって,字幕表示等によって出所を明示することは十分可能であり,かつ,そのことによって引用する側(本件映画)の表現としての価値を特に損なうものとは認められない」
④「「公正な使用(フェア・ユース)の最善の運用(ベスト・プラクティス)についてのドキュメンタリー映画作家の声明」(乙17)の内容等」

 事例判断ではあるが、出所明示と引用の抗弁における「公正な慣行」との関係についての知財高裁の立場が窺われること、及び、①以外の事情はドキュメンタリー映像作品において映像を引用する場合一般に関するものであることから、参考になると思う。


このエントリーをはてなブックマークに追加