裁判例メモ:大阪地判平成30年9月20日(フラダンスの振付けの著作物性)

大阪地方裁判所平成30年9月20日判決
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=88029

関係条文

著作権法2条1項
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
(後略)

メモ

フラダンスの振付けの著作物性について判断した裁判例である。私を含め、フラダンスにあまり触れたことがない者にはわかりづらいが、フラダンスの振付けというのはどうやら、著作物性の有無を検討するのが難しいものらしいのである(本判決書では個別の検討に20頁から111頁までを使っている。)。その原因は、「フラダンスの振付けは,ハンドモーションとステップから構成されるところ,このうちハンドモーションについては,特定の言葉に対応する動作(一つとは限らない)が決まって」いる(判決書16頁)ことにある。

それを前提として、本判決は、次の場合には振付けに著作物性がないという(判決書16頁から17頁)。
①各歌詞に対応する箇所で,当該歌詞から想定されるハンドモーションがとられているにすぎない場合
②同じ楽曲又は他の楽曲での同様の歌詞部分について他の振付けでとられている動作と同じものである場合
③既定のハンドモーションや他の類例と差異があるものであっても,それらとの差異が動作の細かな部分や目立たない部分での差異にすぎない場合(又は「差異が,例えば動作を行うのが片手か両手かとか,左右いずれの手で行うかなど,ありふれた変更にすぎない場合」)

ところで、本判決は、「歌詞の解釈が独自であり,そのために振付けの動作が他と異なるものとなっている場合には,そのような振付けの動作に至る契機が他の作者には存しないのであるから,当該歌詞部分に当該動作を振り付けたことについて,作者の個性が表れていると認めるのが相当である。」(判決書18頁)という。しかし、ここには議論の余地があるように思われる。以下、私見を述べる。歌詞の解釈はアイディアであり著作権法の保護の対象でないことからすると、その解釈から想定されるハンドモーションがとられているにすぎないのであれば、そのハンドモーション(表現)に著作物性を見出す契機はどこにも存在しないように思われる。すなわち、本判決は、そのような場合に「そのような振付けの動作に至る契機が他の作者には存しない」というが、その契機とはすなわち歌詞の独自解釈であり、それはアイディアであるから、「作者の個性」もアイディア部分に存する(裏からいえば、表現に創作性があるとはいえない)ことになるのではないか。

ともあれ、フラダンスの振付けがそういうものであることを知らない私のような者にとっては、少し興味深い判決であったので、取り上げた。

裁判例メモ:知財高判平成30年8月23日(ドキュメンタリー映画における出所明示と引用の抗弁)

知的財産高等裁判所平成30年8月23日判決
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=87950

関係条文

著作権法32条1項
 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
著作権法48条1項
 次の各号に掲げる場合には、当該各号に規定する著作物の出所を、その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならない。
一 第三十二条、第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項、第三十七条第一項、第四十二条又は第四十七条の規定により著作物を複製する場合
(略)
三 第三十二条の規定により著作物を複製以外の方法により利用する場合又は第三十五条、第三十六条第一項、第三十八条第一項、第四十一条若しくは第四十六条の規定により著作物を利用する場合において、その出所を明示する慣行があるとき。

メモ

 現行著作権法においては(旧法とは異なり)、引用(著作権法32条)に伴う出所明示(同法48条1項1号又は3号)は、著作権制限規定による著作物利用に際しての債務にすぎず、出所の明示をしなかったからといって著作権侵害になるわけではないと解されている(加戸守行『著作権法逐条講義』[六訂新版](著作権情報センター、2013年)379頁)。本判決においても、「著作権法32条1項が規定する適法引用の要件として常に出所明示が必要かどうかという点はともかくとしても,」と留保されている。
 しかし、本件においては、以下の諸事情から、「適法引用として認められるための要件という観点からも,本件映画において本件各映像を引用して利用する場合には,その出所を明示すべきであったといえ,出所を明示することが公正な慣行に合致し,あるいは,条理に適うものといえる」のにこれをしなかったので、「著作権法32条1項が規定する適法な引用には当たらない」とされた(判決書24頁)。

①引用する側と引用される側「の区別性は弱いものであるといわざるを得ないから,本件使用部分が引用であることを明らかにするという意味でも,その出所を明示する必要性は高い」
②「本件のようなドキュメンタリー映画の場合,その素材として何が用いられているのか(その正確性や客観性の程度はどのようなものであるか)は,映画の質を左右する重要な要素であるといえるから,この観点からしても,素材が引用である場合には,その出所を明示する必要性が高い」
③「本件においては,引用する側(本件映画)も引用される側(本件各映像)も共に視覚によって認識可能な映像であって,字幕表示等によって出所を明示することは十分可能であり,かつ,そのことによって引用する側(本件映画)の表現としての価値を特に損なうものとは認められない」
④「「公正な使用(フェア・ユース)の最善の運用(ベスト・プラクティス)についてのドキュメンタリー映画作家の声明」(乙17)の内容等」

 事例判断ではあるが、出所明示と引用の抗弁における「公正な慣行」との関係についての知財高裁の立場が窺われること、及び、①以外の事情はドキュメンタリー映像作品において映像を引用する場合一般に関するものであることから、参考になると思う。